マーティン・スコセッシ監督×主演レオナルド・ディカプリオ×競演ロバート・デ・ニーロが初タッグを組んだ今年度最大の話題作、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の10月20日(金)の公開に先駆け、映画監督の西川美和さん、映画ライターのよしひろまさみちさんを招いたアフタートーク付き学生限定試写会を開催しました!
現役大学生約200名の拍手で迎えられ、西川美和監督が登壇。本日が二回目の鑑賞だったという西川監督は、「私が不勉強だったということもありますが、全く知らないアメリカ史だったんです」と切り出し、「1回目は、その物語の設定をつかむのにカロリーを使いましたが、2回目は、俳優陣の演技の様々な表現を見られたり、スコセッシ監督のますます洗練された撮影方法にも注目しながら観ることができました」と話すと、この日司会を務めた映画ライターのよしひろまさみちさんは、「音楽も素晴らしいですよね。音響の効果、サウンドデザインがとても素晴らしいのでIMAXで観た方がいいと思うんです」と劇場での映画体験を推し、西川監督も「劇場体験の一番のよさは音響だと思うので、ぜひ一度体感していただきたいですね」と応えました。
続いて、よしひろさんが本作のキャスティングに触れ「スコセッシ×デ・ニーロ、スコセッシ×ディカプリオという座組は今までもあったんですが、この3人が1つの作品で揃うのは実は本作が初というのは意外でした」と話すと、西川監督は「2人は俳優としてはタイプが違うと思っていて、デ・ニーロが役と距離を置いて、役柄と自分を同一化せずにアプローチする一方で、ディカプリオは、役に入り込むタイプではないかなと」と分析。すると、よしひろさんは「以前、ディカプリオ本人にインタビューした時に、役が抜け切るのに時間がかかって大変という話をされていました」と明かしました。
本作は、アメリカのジャーナリストであるデイヴィッド・グランのノンフィクションを原作とした実話を元にしたサスペンス作品。西川監督が脚本を手掛けた『すばらしき世界』(20)が実在の人物をモデルにした1990年に発行された小説を元にしていることから、本作を脚色という目線でどう感じたかと聞かれると「(『すばらしき世界』では)テーマが現在でも通用したので、原作の設定とは時代を変えて、現代に置き換えました。自分が監督をするためには、やはり物語や主人公の細部まで、自分の血や肉にしないとディレクションができない。ですので、私は原作に書かれていること含めて、可能な限りリサーチしました。スコセッシ監督のアプローチは想像もつきませんが、この原作は相当な厚さがあって、さらに原作と映画では視点も違うということなので、構成が相当違うはずです。それを共同脚本とはいえ、80歳になっても自身で筆を取ってここまで精緻な物語に仕上げるのは驚異的な集中力と体力だと思います」と、巨匠のいまだ衰えぬ創作意欲とチャレンジ精神を絶賛しました。
また、本作で描かれるレオナルド・ディカプリオが演じるアーネストという男がかなりの“ダメ男”であることについて、西川監督は「ダメ男という次元を超えていましたね。すべての人間が根源的に持つ『愚かしさの罪』について、かなり深く書かれていて恐ろしかったです。1回目は、まだ笑えたんです。でも2回目は、その愚かさが、自分に返ってくるような気がして。巨大な力にそそのかされるまま、思考停止していくアーネストを笑えないなと思ったんです」と本作で描かれるキャラクターたちの業について考察しました。
最後に西川監督は「(本作が描く事件について)アメリカという国の恥の歴史ですよね。そのテーマにこれだけのお金を投じて、ずっとトップを走り続けてきたスコセッシ監督に撮らせるんだから、アメリカの映画界にはまだまだ未来があるなと思いました。映画は、本当に見どころだらけです。表現がオーバーフローすることなく、落ち着いてドラマや演技を観ることができる作品です。何気ない場面での俳優たちの表情や1対1の芝居も素晴らしく、口にする言葉とは裏腹の心理が、実に的確に、ヒリヒリと伝わってくる演技が見られます。セリフにならないところの演技をどう演出するかは本当に難しいんです。あんな演出ができたら夢のようだと思いました」と西川監督ならではの視点での見どころを語り、80歳を超えてもなお全世界の映画界のトップを走り続ける巨匠マーティン・スコセッシを讃え、イベントは終了しました。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は2023年10月20日(金)より劇場公開です!